ストーリーの面白さはもとより、古代のハワイにあった信仰や世界観をうかがえるという意味でも、興味が尽きないハワイの神話や伝説の数々。そこに登場する個性豊かなキャラクターたちをご紹介しながら、ハワイ文化の魅力をお伝えします。

帰ってくる神「Lono」

夜空にひときわ輝く星、Pleiades(ハワイ語で「Makali’i」)のあらわれとともに、古代ハワイで毎年行われたという祭り「Makahiki」。4カ月にわたったというその神事で祈りの対象とされたのが、ハワイの四大神のひとつ「Lono」でした。その時期にLonoがハワイに帰ってくるという信仰があったことから、たまたま祭りの最中にハワイを訪れたCaptain Cookが、Lonoとして歓待されたという逸話でも有名な神さまです1)。当時のハワイのひとびとにとって、はじめて目にする西洋人がいかに驚きであったかをうかがうことができるエピソードですが、「帰ってくる神さま」が見たことのない姿をしている(?)というのも、なんとなくふに落ちない話ではあります。というか、そもそもこのLonoという存在、いったいどんなふうにイメージされていたのかも気になるところ……。そのあたりを、古代のハワイのひとびとがLonoに捧げたことばをてがかりに探ってみたいと思います。
たとえば、Makahikiの祭りとともに唱えられた祈り(ハワイ語で「pule」)は、次のようなLonoへの呼びかけから始まります。

Lonoよ、あなたのからだは天上の世界にある。
長く連なる雲、短いちぎれ雲、
(下界を)見守る雲、
天にあって、それはなにより(地上を)見わたしている雲……
(参考文献1より筆者訳)

こんなふうに、Lonoはなにより空に浮かぶ雲として語られていました。重要だと思うのは、その姿が唯一不動のものではなく、雲のさまざまな表情として描写されていること。たとえば、嵐をもたらしたり、カミナリのとどろきや稲妻をともなったりもする雲は、ときに雨を降らせ、美しい虹を連れてくることもあります。雲を生み出すのは湿った気流であるという意味では、あらゆる風もLonoのあらわれであり、もっといえば、雲が降らせた雨が流れ込む海も、大地をうるおし泉となってわき出る水も、みんなLonoにつながっている……。そんな一連のイメージとともにあるLonoのことを、「暗雲に頭を隠している神」と語るハワイ語の古い表現もあったりしますが、あくまでもLonoは雲を含め水の循環とともにある現象であって、たとえば一神教的な神(的存在)とは異質なものであるようです。
一方、なぜ帰ってくる神が雲であり雨なのか?については、Lonoをめぐって繰り広げられたMakahikiの祭りが、ハワイの雨期の到来とともに始まることにも関係があるのではないかと思われます2)。夏の乾燥した時期と比較的雨が多い冬とがほぼ半年周期で繰り返されるハワイの気象条件を考えると、雨期の始まりは雲が空に戻ってくる季節でもあるわけですね。そう考えると、「帰ってくる神」ほどLonoにふさわしい表現はないようにも思えてきます。
こうして古代のハワイのひとびとにとってのLonoのイメージを膨らませてみると、ますますあやしく思えてくるのが、Captain CookとLonoとの取り違え説。実際のところ、未開の地の大発見的な、欧米人の目から見た歴史ばかりが語られるなかで、この取り違えエピソードが一人歩きしてしまったようなところもあるようです。そんななか、kanaka maoli(ハワイのネイティブ)の立場から、ハワイの欧米化の歴史や、それにともなう政治・経済的状況の変遷を考察しようという試みが本格的に始まったのは、ようやく近年になってからのことだったりします。Captain Cookのエピソードにかぎらず、なんとなく知ってるつもりになっていることこそ、いまいちど疑ってみる必要があるのかもしれない……という気がしています3)

注釈

1)Captain Cook がハワイ諸島にやってきたのは1778年。記録で確かめられる限りでは、彼らが最初にハワイを訪れた西洋人だったとされています。
2)Makahikiが始まるのは、10月の終わりから11月はじめのころ。この祭りは、大地の豊かさに感謝し次の実りを祈る意味合いもあるなど、農業と深く結びついた祭祀だったようです。4カ月ものあいだ、日ごろの生業も含めあらゆる労働が禁止され、Lonoにまつわる神事が行われるとともに、ひとびとはスポーツなどの娯楽を楽しんだとされます。夏の疲れを癒すといった目的があったのかもしれませんが、(雨を降らせる)雲こそが地上の生命の源であるという感覚が、Lono信仰の根底にあったのではないかと想像されます。
3)Captain Cookが、トラブルが原因でハワイのネイティブに殺されたという事実から考えても、Captain Cook-Lono取り違え説については、再考の余地があるように思われます。

参考文献

1)Beckwith M: Hawaiian Mythology. Honolulu, University of Hawaii Press, 1970, pp31-36
2)Malo D: Hawaiian antiquities-mo’olelo Hawaii. Honolulu, Bishop Museum Press, 1987, pp141-159
3)Rohrer J: Haoles in Hawai’i -race and ethnicity in Hawai’i. Honolulu, University of Hawaii Press, 2010, pp48-49
※現在、下記のサイトでも執筆中。

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